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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8502号 判決 1957年2月26日

原告 松永政信

右代理人弁護士 三谷穰

被告 都相互交通株式会社

右代表者 園田加之松

右代理人弁護士 木村恒

主文

被告は原告に対し金七十万円及びこれに対する昭和三十年十一月十四日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金七万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

訴外永瀬文蔵、同茨木進の各証言、同証言によつてその成立を認めうる甲第一、第二号証の各一及び原告本人尋問の結果を総合すれば被告は原告主張の日本件手形二通を訴外永瀬文蔵宛に振出し、原告は訴外永瀬文蔵から本件手形二通を白地式で裏書譲渡を受けて、現にその所持人であることを認めるに十分である。

よつて被告主張の抗弁について判断するに、株式会社において取締役会の承認をえずして取締役個人を受取人とする約束手形を振出した場合において、これを無効と解すべき理由はなく、商法第二百六十五条にいわゆる「取引」の中には、単に取引の手段であつて会社との間にそれ自体利害衝突を来すことのない約束手形振出行為のごときは包含されないと解するを相当とする。従つて本件手形二通の振出がいづれも取締役会の承認をえてなされたものではないから無効であるとの被告の主張は、それ自体理由がないのみならず、被告は運営資金がなく、代表取締役である訴外永瀬文蔵個人の信用によつて手形割引による融資をはかる必要から、当時被告の在任取締役全員が相談の上本件手形二通を振出したものであることは前段挙示の各証人の証言及び同証言によつてその成立を認めうる甲第一、第二号証の各二に徴して明白であり、これに反する証人粂野芳郎の証言は信用し難い。従つて被告の抗弁は排斥を免ぬかれない。

しからば被告は原告に対し本件手形金合計金七十万円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であること訴訟の経過に徴して明白である昭和三十年十一月十四日以降右完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつてその支払を求める原告の本訴請求はその理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第九十六条を各適用して主文のとおり判決した。

(判事 守田直)

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